「居抜き」という用語が店舗ビルのテナント募集の際に記載されているのをみたことがあるでしょうか。コロナ禍で最近、一気に増えてきていると言われる「居抜き店舗」「居抜き物件」について、物件を貸し出す側のビルオーナーからみたメリット・デメリットを解説します。
コロナ禍で人気の居抜き物件や店舗とは? ビルオーナーのメリット・デメリット
居抜き店舗・居抜き物件とは
そもそも「居抜き」とは
実は貸室の契約書には「居抜き」という言葉はありません。契約書上普通の賃貸借契約になることがほとんどです。 居抜きとはオフィスや店舗物件で、前に借りていたテナント入居者がいなくなっただけで、設備や内装、造作物が残っていて営業をはじめやすい状態です。飲食店によく見られますが、美容院やクリニック、エステサロン、学習塾など多種多様のものが居抜き物件として存在しています。
居抜きと言っても一様ではなく、前テナントが使用していた内装や設備、食器類まで全て残されて看板を変えればすぐに営業できる状態のものから、造作や設備の一部が残されているものまで物件によっていろいろなケースがあります。
「スケルトン」との違い
スケルトンとは居抜きとは異なり、床や壁、天井などの内装から設備まで一切とりはらい、建物の駆体が剥き出しになっている状態のことをいいます。内装造作するときは一から作ることになります。通常の賃貸約契約では原状回復義務を前提としているケースがほとんどです。解約の際は内装などは全て撤去し、スケルトン状態に戻してもらうことになります。
「造作譲渡」とは
居抜き物件において、退去予定であるテナントと次のテナントとの間で内装や設備の譲渡を行うことを造作譲渡といいます。現場渡しとして残された内装や設備を無償で引き継ぐ場合もありますが、残される内装造作や設備などは退去予定者の財産とみなします。それらを次の入居者へ有償で譲渡するのが造作譲渡です。
内装や設備といってもその具体的なものとしては、例えばエアコンなどの空調設備や厨房機器、トイレなどたくさんの種類があり、造作譲渡料の一式としてまとめられることが多いようです。またこの一式には、個々の造作そのものの価値だけではなく、お店にとってもっとも大事なもののひとつである、物件の立地といった価値が含まれていると言われています。好立地の物件の場合には高額になることもあるようです。
ただし必ずしもすべてまとめて一式とされるわけではなく、音響設備や食器類が含まれなかったりする場合もあり、その都度確認しながらの交渉が行われます。また特に設備類はリース契約になっているものも多く、前のテナントとの契約解消に伴って返却されてしまいますので注意が必要です。
居抜きのメリット
入居予定者にとってのメリット
入居予定者にとってのメリットは、なんといっても出店コストを低く抑えることができることです。スケルトン状態から内装造作を作る費用はもとより、工期が大幅に短縮できるので、家賃発生から開店までの期間を短くすることができます。設備についてもゼロから揃えるよりも活用できるものを活用し、追加で必要なものを用意するだけで済むので、もちろん例外はありますが費用を抑えることができるようです。
また物件がすでにお店になっているのでイメージがつかみやすい点も、開店後のスムーズな経営につながるメリットとしてあげられるでしょう。
退去予定者にとってのメリット
退去するテナントにとってもやはりコスト的なメリットが大きな魅力です。
店舗やオフィスにおける通常の賃貸借契約では、原状回復義務があるものがほとんどです。業種にもよりますが、内装を撤去してスケルトン状態に戻すには坪単価で数万円程度がかかるので店全体では何百万円になってしまうこともあります。内装の撤去費用がいらなくなるだけでなく、造作譲渡料で交渉がまとまれば内装設備に投資した費用のうち、いくらかを回収することができるかもしれません。
ビルオーナーにとってのメリット
ビルオーナーにとって一番困るのは賃料収入がなくなることです。前のテナントが退去してから次のテナントが入居するまでの空室期間はビルオーナーにとっては家賃収入がなくなるだけでなく、空室募集のために客付会社にADと呼ばれる広告料を支払ったり、場合によってはフリーレントなども考慮にいれなければなりません。店舗やオフィスの場合、マンションやアパートの賃貸住居よりも解約予告期間が長く設定されていることが多いですが、その間に次のテナントが決まらず空室期間が長引けば、ビルオーナーにとっては賃貸経営を逼迫しかねません。
居抜きで募集する場合、次のテナントが決まれば家賃収入の途切れる空白期間を作らず済むことがビルオーナーにとっての大きなメリットです。個々の物件によるので一概にはいえませんが、上記のように入居予定者にとってコスト面でのメリットが大きい居抜き物件の場合、リーシングがしやすくなることがあります。
また、前のテナントから次のテナントへ内装や設備を引き継ぐので、退去時に多い原状回復費用に関するトラブルや工事に伴い発生する振動・騒音・臭気といった近隣とのトラブルも可能性が低くなります。
居抜きのデメリット
入居予定者にとってのデメリット
よく言われるデメリットとしては、前テナントの内装レイアウトや店舗イメージも引き継ぐため、新規店舗としてのオリジナリティを打ち出しにくいという点です。特に前のテナントが退去する理由が営業不振であったりなんらかのトラブルによるものであった場合は、出店に悪影響を及ぼしかねないので注意が必要でしょう。
また内装や設備を中古で引き継ぐことになるため故障のリスクがあることも。コスト面でのメリットが魅力の居抜きなのに、開店早々に修理や買い替えの必要にせまられて想定外の費用がかかってしまうこともあるようです。
契約が通常の賃貸借契約の場合は、原状回復がスケルトン状態を指すときがほとんどなので、解約時に解体費用がかかる場合もあります。
退去予定者にとってのデメリット
オフィスや店舗は、賃貸住宅では1ヶ月程度の解約予告の通告期間が6ヶ月程度と長いのが一般的です。そのためまだ営業しているのに閉店の情報が漏れてしまうことがあります。従業員などにまだ伏せておきたい場合には注意が必要です。
立地がよく大枚をはたいて入手したり、こだわりを持って一から造作した店舗でも、市況によっては思ったような金額では譲渡できず無償となってしまうこともあります。資産として償却がある場合は注意が必要です。
ビルオーナーにとってのデメリット
造作譲渡のところで述べたように、退去テナントと入居テナントの交渉は設備のひとつひとつを確認していくなど、調整に手間がかかります。これまで入居していたテナントのメンテナンス状態が悪ければ、次のテナントの入居後にトラブルが発生し、ビルオーナーに修理費用を請求するなどの交渉が発生することもあり得ます。また、居抜きだとテナントの業種が限定されてしまうのも貸主にとってはシーシング上のデメリットです。物件の貸主にとっては、一旦まっさらの状態に戻せるスケルトンの原状回復を好む傾向が強いのはこのような理由があるからです。
まとめ
これまで見てきたように居抜きにはメリット・デメリットがあります。立地や物件の状態、業種など個々のケースによって判断していく必要があります。それにはリーシングやテナント交渉のプロフェッショナルである管理会社に相談するのが良いでしょう。ただし管理会社によってオフィスや店舗の管理実績が異なります。物件の状態やテナントの状況、周辺家賃相場などをしっかり把握している管理会社であるのはもちろんのこと、オーナーに代わって原状回復や居抜きの交渉をまとめることのできる、商業ビルの管理実績が豊富な管理会社を選ぶのが良いでしょう。
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